「防音室に吸音材を貼れば、音漏れが防げますか?」
この質問をする方は多いのですが、答えは「No」です。
防音対策には「遮音」と「吸音」という2つの重要な概念があり、それぞれ役割が全く違います。遮音は音を外に漏らさない技術、吸音は室内の音を整える技術です。
この違いを理解せずに防音室を選ぶと、「思ったより音が漏れる」「室内の響きが悪い」という失敗につながります。
この記事では、防音のプロが「遮音と吸音の違い」を徹底解説します。
遮音とは|音を「跳ね返す」技術#
遮音の定義#
遮音とは、音を遮り、外部に漏らさないようにする技術です。
音は空気の振動として伝わります。遮音は、この振動を物理的に「跳ね返す」または「遮断する」ことで、音が外部に伝わるのを防ぎます。
遮音の原理:
- 重い・密度の高い素材を使う
- 空気の振動を跳ね返す
- 外部への音の透過を減らす
遮音性能の指標「D値」#
遮音性能は、前述した「D値」で表されます。
| D値 | 遮音性能 | 隣室での聞こえ方 |
|---|---|---|
| D-30 | 低 | 小さく聞こえる |
| D-40 | 中 | かすかに聞こえる |
| D-50 | 高 | ほぼ聞こえない |
| D-60 | 非常に高 | 完全に遮音 |
遮音材の種類#
遮音に使われる材料は、重く、密度が高いものが基本です。
主な遮音材:
| 材料 | 密度 | 特徴 |
|---|---|---|
| コンクリート | 非常に高い | 建物の構造材として最適 |
| 石膏ボード | 高い | 安価で施工しやすい |
| 遮音シート | 中〜高 | 柔軟性があり、隙間なく施工可能 |
| 鉛シート | 非常に高い | 薄くても高い遮音性能(現在はあまり使用されない) |
[!IMPORTANT] 遮音材は「重さ」が命。軽い素材では高い遮音性能は得られません。
吸音とは|音を「吸収する」技術#
吸音の定義#
吸音とは、音のエネルギーを吸収し、音の反射を抑える技術です。
音は空間内で反射し、エコー(反響)を生み出します。吸音は、この反射を減らし、クリアな音環境を作ります。
吸音の原理:
- 多孔質(穴が多い)素材を使う
- 音エネルギーを熱エネルギーに変換
- 音の反射を抑える
重要なポイント:吸音は音を外に漏らさない効果はほとんどありません。
吸音率の指標#
吸音性能は「吸音率(α)」で表され、0〜1の値を取ります。
| 吸音率 | 性能 | 素材例 |
|---|---|---|
| 0.0〜0.2 | 低い | コンクリート、ガラス |
| 0.2〜0.5 | 中程度 | カーペット、カーテン |
| 0.5〜0.8 | 高い | グラスウール、ウレタンフォーム |
| 0.8〜1.0 | 非常に高い | 特殊吸音材(ロックウール等) |
吸音材の種類#
吸音材は、軽く、多孔質なものが基本です。
主な吸音材:
| 材料 | 特徴 | 用途 |
|---|---|---|
| グラスウール | ガラス繊維の綿状素材 | 壁内部、天井裏 |
| ロックウール | 岩石繊維の綿状素材 | 防音室の内装 |
| ウレタンフォーム | スポンジ状の素材 | 録音スタジオ、配信ブース |
| 吸音パネル | 表面に凹凸のあるパネル | 壁面装飾兼用 |
[!TIP] 吸音材は「軽くてスカスカ」が基本。重い素材は吸音には向きません。
遮音と吸音の違い|一覧表で比較#
| 項目 | 遮音 | 吸音 |
|---|---|---|
| 目的 | 音を外に漏らさない | 室内の音を整える |
| 原理 | 音を跳ね返す | 音を吸収する |
| 素材の特徴 | 重い・密度が高い | 軽い・多孔質 |
| 主な素材 | コンクリート、石膏ボード | グラスウール、ウレタンフォーム |
| 効果 | 外部への音漏れ防止 | 室内のエコー・反響を抑える |
| 性能指標 | D値(遮音等級) | 吸音率(α) |
| 単独使用 | 音漏れは防げるが、室内が響く | 室内は快適になるが、音は漏れる |
ポイント:遮音と吸音は別物。両方を組み合わせることで、理想的な防音環境が完成します。
よくある誤解と正しい知識#
誤解1: 「吸音材を貼れば音漏れが防げる」#
× 誤解: 壁に吸音材(ウレタンフォーム等)を貼れば、音が外に漏れなくなる
○ 正解: 吸音材は音を吸収するだけで、音漏れは防げない
理由:
- 吸音材は軽くて多孔質のため、音を透過させてしまう
- 遮音性能(D値)はほぼゼロ
- 音が外に漏れるのを防ぐには、遮音材が必須
実例:
- YouTubeの配信ブースで、壁一面にウレタンフォームを貼っている映像を見たことがあるかもしれません。これは「室内の音質を良くするため」であり、「音漏れを防ぐため」ではありません。
誤解2: 「遮音材だけで防音は完璧」#
× 誤解: 石膏ボードやコンクリートで壁を厚くすれば、それだけで十分
○ 正解: 遮音材だけでは、室内の響きが悪くなる
理由:
- 遮音材は音を跳ね返すため、室内で音が反射しまくる
- 楽器演奏や録音では、エコーがひどくなり、音質が悪化
- 快適な音環境には、吸音材との組み合わせが必須
実例:
- コンクリート打ちっぱなしの部屋で演奏すると、音が響きすぎて不快になる経験をしたことがあるかもしれません。これは遮音はできているが、吸音がないためです。
誤解3: 「防音カーテンで十分」#
× 誤解: 防音カーテンを設置すれば、音漏れが防げる
○ 正解: 防音カーテンは「吸音効果」が主で、遮音効果は限定的
理由:
- 防音カーテンは布製で軽いため、遮音性能は非常に低い
- 高音域の反射を抑える吸音効果はあるが、低音は透過する
- 「隣人からの生活音を軽減する」程度の効果
適切な用途:
- 室内のエコーを抑える
- 窓からの高音域の音漏れを「やや」軽減する
防音室における遮音と吸音の組み合わせ#
防音室は、遮音構造と吸音材を組み合わせて設計されています。
標準的な防音室の構造#
外側(遮音層):
- 外壁:石膏ボード + 遮音シート
- 空気層:振動を遮断
- 内壁:石膏ボード
内側(吸音層): 4. 吸音材:グラスウール、ロックウール 5. 内装仕上げ:吸音パネル、クロス
この構造により:
- 遮音層が音を外に漏らさない
- 吸音層が室内の音を整える
用途別の最適バランス#
| 用途 | 遮音重視度 | 吸音重視度 |
|---|---|---|
| ピアノ練習室 | 高 | 中 |
| 録音スタジオ | 高 | 高 |
| 配信・実況ブース | 中 | 高 |
| ドラム練習室 | 非常に高 | 中 |
例:録音スタジオ
- 遮音:D-60以上(外部への音漏れ完全遮断)
- 吸音:吸音率0.6以上(クリアな音質)
例:配信ブース
- 遮音:D-30〜40(生活音レベルの遮音)
- 吸音:吸音率0.7以上(マイクに不要な反響が入らない)
DIY防音の落とし穴#
「自分で防音室を作りたい」という方も多いですが、遮音と吸音の違いを理解しないと失敗します。
よくあるDIY失敗例#
失敗例1: 壁一面にウレタンフォームを貼る#
やったこと: Amazonで吸音ウレタンフォームを大量購入し、壁全面に貼る
結果: 室内の音はクリアになったが、隣人から「うるさい」と苦情が来た
原因: 吸音材は音漏れを防がない
失敗例2: 石膏ボードだけで壁を厚くする#
やったこと: ホームセンターで石膏ボードを買い、壁に何層も貼る
結果: 音漏れは減ったが、室内がエコーだらけで演奏しにくい
原因: 遮音材だけでは室内の響きが制御できない
DIY防音の正しい手順#
ステップ1: 目的を明確にする
- 音漏れを防ぎたい → 遮音重視
- 室内の音質を良くしたい → 吸音重視
- 両方 → 遮音 + 吸音の組み合わせ
ステップ2: 遮音層を作る
- 石膏ボード + 遮音シートを壁に施工
- 隙間を完全に塞ぐ(コーキング材を使用)
- ドア・窓の気密性を高める
ステップ3: 吸音層を追加する
- グラスウール、ロックウールを壁内部に充填
- 表面に吸音パネルを設置
ステップ4: 検証する
- 実際に音を出して、外部での聞こえ方を確認
- 室内の音質をチェック
まとめ|遮音と吸音を使い分ける#
遮音と吸音の違いをまとめると:
遮音:
- 音を外に漏らさない
- 重く、密度の高い素材を使う
- D値で性能を表す
吸音:
- 室内の音を整える
- 軽く、多孔質な素材を使う
- 吸音率で性能を表す
防音室の理想的な構成:
- 外側に遮音層(石膏ボード + 遮音シート)
- 内側に吸音層(グラスウール + 吸音パネル)
最終アドバイス:
- 「音漏れを防ぐ」には遮音が必須
- 「室内の音質を良くする」には吸音が必須
- 両方を組み合わせることで、理想的な防音環境が完成
この知識を持って、自分に最適な防音室を選んでください。
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