防音室を作ったけど、「響きが多い」「音がこもる」と感じたことはありませんか?
その原因は、**RT60(残響時間)**が最適値に調整されていないからです。
RT60は、防音室の「音響環境を数値化」する最重要指標です。このガイドでは、RT60の測定方法、最適値、改善方法を詳しく解説します。
RT60(残響時間)とは#
まず、基本的な理解から始めましょう。
RT60の定義#
RT60 = 音が100dB減衰するのに要する時間
音源が発生
↓
最大音量(0dB)
↓
60dB減衰
↓
計測完了(この時間 = RT60)
例
- RT60 = 0.3秒:音が素早く減衰(吸音が多い)
- RT60 = 0.5秒:バランスが良い(プロレベル)
- RT60 = 1.0秒:響きが多い(吸音が不足)
なぜRT60が重要か#
| 項目 | RT60が短い | RT60が最適 | RT60が長い |
|---|---|---|---|
| 音の響き | なし | 自然 | 多い |
| ボーカル品質 | 冷たい | 温かい | ぼやけた |
| 配信・配信 | 有利 | 最適 | 不利 |
| 映画鑑賞 | ○ | ◎ | △ |
最適なRT60
- ポッドキャスト・配信:0.2〜0.4秒
- ボーカル録音:0.3〜0.5秒
- 音楽制作:0.4〜0.6秒
- 映画鑑賞:0.5〜0.8秒
RT60を測定する方法#
3つの測定方法をご紹介します。
方法①:スマートフォンアプリ(簡易版)#
必要な物
- スマートフォン
- 無料アプリ「Room Acoustics」など
- 音源(白色ノイズ生成機能付き)
測定手順
- アプリをインストール
- 測定モードを選択
- 白色ノイズを再生
- 音を止める(アプリが自動計測)
- RT60を読み取る
精度
- ★★☆☆☆(参考値程度)
- 傾向把握には十分
- 正確な数値には不向き
費用
- 無料〜¥1,000
方法②:周波数特性測定ツール(中級版)#
必要な物
- パソコン + 外部オーディオI/F
- REW(Real Room EQ Wizard)無料ソフト
- マイク(数千円〜)
- スピーカー
測定手順
- REWをインストール・起動
- マイクとスピーカーを接続
- 測定信号を発生
- マイクで受信して計測
- RT60をグラフ化
精度
- ★★★☆☆(かなり正確)
- 周波数別のRT60も取得可
- DIYには最適
費用
- ソフト:無料
- マイク:¥3,000〜10,000
- オーディオI/F:¥10,000〜30,000
- 合計:¥13,000〜40,000
方法③:プロ測定(高精度版)#
提供者
- 音響コンサルタント
- 建築士事務所
- 防音企業
測定内容
- 複数周波数でのRT60測定
- 空間特性の詳細分析
- 改善提案レポート
精度
- ★★★★★(最高精度)
- 周波数別の詳細データ
- 改善方法の専門アドバイス
費用
- ¥50,000〜150,000
REWを使った測定方法(詳細版)#
最もコスパが良い「REW測定」を詳しく解説します。
準備物の選び方#
マイク選択
| 製品 | 価格 | 推奨度 |
|---|---|---|
| BEHRINGER ECM8000 | ¥4,000 | ★★★★★ |
| AT2020 | ¥10,000 | ★★★★☆ |
| Shure SM7B | ¥25,000 | ★★★☆☆ |
推奨:BEHRINGER ECM8000
- コスパ最高
- 平坦な周波数応答
- 測定用の標準マイク
オーディオI/F選択
| 製品 | 価格 | 推奨度 |
|---|---|---|
| Behringer U-PHORIA UMC202HD | ¥8,000 | ★★★★★ |
| Focusrite Scarlett Solo | ¥15,000 | ★★★★☆ |
| RME Babyface PRO | ¥45,000 | ★★★☆☆ |
推奨:Behringer UMC202HD
- 十分な性能
- 手頃な価格
- セットアップが簡単
REWのセットアップ#
STEP1:ソフトウェアのインストール
- www.roomeqwizard.com にアクセス
- REWをダウンロード
- インストール実行
- 起動
STEP2:オーディオデバイス設定
- Preferences → Audio Device
- Output:オーディオI/Fを選択
- Input:マイク入力を選択
- Latency calibration
STEP3:スピーカー&マイク配置
【測定セットアップ】
スピーカー(オーディオI/F接続)
↓
┌────────┐
│ 測定 │
│ 室内 │
│ │
└────────┘
↑
マイク(高さ1.2m)
重要なポイント
- マイク高さ:1.2m(耳の高さ)
- スピーカーとの距離:1〜2m
- 室内の複数点で計測(推奨5点以上)
実際の計測手順#
STEP1:キャリブレーション
- Preferences → Calibration
- マイク感度入力(初回のみ)
- 基準音圧レベル設定
STEP2:測定信号生成
- Measurements → New Measurement
- SPL(音圧レベル)を設定(85dB推奨)
- “Generate"をクリック
- スピーカーから測定信号を再生
STEP3:RT60計測
- REWが自動的にRT60を計測
- グラフにプロット
- 周波数別のRT60が表示される
STEP4:結果を記録
- 全体RT60
- 周波数別RT60(125Hz、250Hz、500Hz、1k、2kHz等)
- グラフを画像保存
測定結果の読み方#
RT60グラフの解釈
RT60(秒)
1.0 ┌────────────────┐
│ ×:現在値 │
0.8 │ −:推奨範囲 │
│ × │
0.6 │ ──────────── │
│ × │
0.4 │ ──────────── │
│ × × │
0.2 │ │
└────────────────┘
125 250 500 1k 2k 4k 8k
周波数(Hz)
読み方のポイント
- 周波数が低いほどRT60が長くなるのは自然
- 1kHz付近の値が重要
- 周波数別に大きく異なる場合は改善対象
最適なRT60値#
用途別の目標RT60をご紹介します。
用途別の最適RT60#
ポッドキャスト・配信
| 周波数 | 目標RT60 | 理由 |
|---|---|---|
| 125Hz | 0.3秒 | 低音制御 |
| 500Hz | 0.25秒 | 最も重要 |
| 1kHz | 0.2〜0.3秒 | 人声帯域 |
| 4kHz | 0.2〜0.3秒 | 明確性 |
推奨:全体0.2〜0.35秒
ボーカル・歌唱録音
| 周波数 | 目標RT60 | 理由 |
|---|---|---|
| 125Hz | 0.4秒 | 温かみ保持 |
| 500Hz | 0.3秒 | バランス |
| 1kHz | 0.3〜0.4秒 | 自然さ |
| 4kHz | 0.3〜0.4秒 | クリアさ |
推奨:全体0.3〜0.5秒
音楽制作・DTM
| 周波数 | 目標RT60 |
|---|---|
| 低音域 | 0.4〜0.6秒 |
| 中音域 | 0.35〜0.5秒 |
| 高音域 | 0.3〜0.4秒 |
推奨:全体0.4〜0.6秒
映画鑑賞・ゲーム
| 周波数 | 目標RT60 |
|---|---|
| 全体 | 0.5〜0.8秒 |
RT60を調整する方法#
測定後、最適値に調整する方法をご紹介します。
①RT60が長すぎる場合(吸音を増やす)#
対策
| 対策 | 効果 |
|---|---|
| 吸音材追加 | RT60を0.1〜0.3秒短縮 |
| カーペット導入 | 主に低音を吸収 |
| 吸音カーテン | 高音を吸収 |
| 家具配置 | 反響を軽減 |
実施手順
- 現在のRT60を測定
- 目標値との差を計算
- 必要な吸音材量を推定
- 段階的に追加
- 各段階で再測定
推定計算式
追加吸音材面積 = (RT60差 / 0.1秒) × 現在の吸音材面積
例:RT60が0.6秒 → 0.3秒に短縮したい
(0.6 - 0.3)/ 0.1 = 3倍の吸音材が必要
②RT60が短すぎる場合(吸音を減らす)#
対策
| 対策 | 効果 |
|---|---|
| 吸音材を部分撤去 | RT60を延長 |
| 反射面を増加 | 特に低音を延長 |
| リバーブ追加 | 電子的に補足 |
実施手順
- 吸音パネルを部分撤去
- 後面の壁を反射性に
- 再測定して確認
③周波数別に異なる場合(周波数別調整)#
低音が長すぎる場合
- バストラップ(コーナー対策)を追加
- 大型吸音材で対応
高音が長い場合
- 高音吸音材(薄い吸音パネル)を追加
実践例:ポッドキャストボックスの最適化#
具体例で説明します。
初期測定#
測定結果
周波数 | 現在のRT60 | 目標RT60
-------|-------------|----------
125Hz | 0.8秒 | 0.3秒
500Hz | 0.5秒 | 0.25秒
1kHz | 0.4秒 | 0.25秒
4kHz | 0.3秒 | 0.2秒
評価
- 低音が長すぎる(低音が強調される)
- 高音は許容範囲
- 全体的に吸音が不足
改善計画#
STEP1:吸音材追加
- 側面に吸音パネル(50mm × 4㎡)
- 天井に吸音材(50mm × 2㎡)
STEP2:再測定
周波数 | 改善後 | 目標RT60
-------|-----------|----------
125Hz | 0.6秒 | 0.3秒
500Hz | 0.35秒 | 0.25秒
1kHz | 0.3秒 | 0.25秒
4kHz | 0.25秒 | 0.2秒
評価
- 改善中(低音はまだ長い)
- 中高音は目標達成
STEP3:低音対策
- バストラップをコーナーに配置
STEP4:最終測定
周波数 | 最終値 | 目標RT60
-------|-----------|----------
125Hz | 0.3秒 | 0.3秒 ✓
500Hz | 0.25秒 | 0.25秒 ✓
1kHz | 0.25秒 | 0.25秒 ✓
4kHz | 0.2秒 | 0.2秒 ✓
結果
- 全周波数で目標達成
- 理想的なボックス完成
測定時の注意点#
正確な測定のためのポイントです。
測定環境の準備
- 外部ノイズを最小化(静かな時間帯)
- 測定前に1時間の換気・温度安定化
- 複数点での測定(平均値を使用)
- 湿度50%前後が理想
測定機材の確認
- マイク感度の正確性(キャリブレーション)
- ケーブルの断線チェック
- オーディオI/Fのレベル設定(クリッピング防止)
測定結果の記録
- すべての測定データを保存
- グラフを画像化して保管
- 改善前後の比較記録
RT60測定後の最終チェック#
数値だけでなく、実感的な確認も重要です。
聴感テスト
- 声が自然に聞こえるか
- 反響がないか
- 低音がこもっていないか
- 高音が冷たくないか
A/Bテスト
- 改善前の録音と改善後を比較再生
- 差を実感することが重要
RT60測定機材のおすすめセット#
全部揃えるなら、このセットがおすすめです。
¥30,000コース(入門)
| 商品 | 価格 |
|---|---|
| BEHRINGER ECM8000 | ¥4,000 |
| Behringer UMC202HD | ¥8,000 |
| XLRケーブル(3本) | ¥3,000 |
| マイクスタンド | ¥2,000 |
| ポップガード | ¥1,000 |
| スピーカー(PC用) | ¥8,000 |
| 合計 | ¥26,000 |
¥50,000コース(推奨)
| 商品 | 価格 |
|---|---|
| 上記セット | ¥26,000 |
| キャリブレーションマイク | ¥15,000 |
| マイク設置治具 | ¥3,000 |
| 測定用マット | ¥6,000 |
| 合計 | ¥50,000 |
まとめ:RT60測定は「防音室の完成度を決める」#
重要ポイント
- ✓ RT60は防音室の音響環境を数値化する指標
- ✓ 用途別の最適値がある
- ✓ REWを使えば¥30,000で正確測定可能
- ✓ 段階的な改善が効果的
- ✓ 周波数別の調整が重要
測定→改善のサイクル
- 初期測定(ベースライン把握)
- 目標値設定
- 段階的改善
- 再測定
- 微調整
正しいRT60管理があれば、防音室は完全な音響環境になります。
数値に基づいた改善で、プロレベルの環境を実現しましょう!
