日本の建築防音材市場が転換点を迎えています。2025年の建築基準法改正に伴い、省エネ基準と防音性能の両立が求められるようになったからです。これに対応する新素材・新工法が相次ぎ、市場は急速に成長・再構成されつつあります。
本記事では、2024〜2025年の吸音材・遮音シート市場の現況、素材革新の動向、価格トレンド、および今後の展開を解説します。
吸音材・遮音シート市場の現状#
2024〜2025年の市場規模と成長率#
日本国内の防音建材市場
- 2024年市場規模:約 950億円
- 2025年予測:約1,050億円(前年比 110%)
- 2027年見通し:約1,380億円(CAGR 11〜13%)
カテゴリー別構成(2024年)
| カテゴリ | 市場規模 | 成長率 |
|---|---|---|
| 吸音材(パネル・ボード) | 380億円 | +8% |
| 遮音シート・膜材 | 240億円 | +12% |
| 防振材・制振材 | 180億円 | +15% |
| 複合防音材 | 100億円 | +18% |
| その他 | 50億円 | +5% |
注目点:複合防音材(吸音+遮音+防振を一体化)の成長率が最高。新基準対応の需要が反映。
建築基準法改正と省エネ基準の影響#
2025年4月の建築基準法改正は、防音材市場に3つの波及効果をもたらしています。
1. 開口部性能要件による需要増#
- 改正基準では「窓・サッシの断熱性」が評価対象に昇格。
- 二重窓・複層ガラスの採用が促進される。
- 結果として吸音用ウレタンフォーム、防音膜材の需要が +20%。
2. 断熱材との複合機能の要求#
- 従来:断熱材と吸音材は別製品。
- 改正後:「断熱+吸音+遮音」を兼備する複合材が求められるように。
- 新製品開発が加速。
3. リノベーション市場の拡大#
- 既存住宅と新基準対応建物の性能差が明確化。
- 既存住宅のリフォーム需要 +30% 予想。
- 内窓設置+吸音パネル施工がセットで推奨される傾向。
賃貸・住宅リフォーム市場での需要変化#
- 防音賃貸の供給増:大手デベロッパーが防音仕様を標準化開始。
- 既存住宅リフォーム:防音化工事が「選択肢」から「標準装備」へシフト。
- DIY市場:防音材の個人購買が +25% 増加。
新素材・新工法のトレンド#
バイオ素材・リサイクル材の採用例#
セルロース系吸音材#
- 素材:古新聞、段ボール、木材チップをリサイクル。
- 特性:従来のグラスウール比 40% 軽量、吸音性能は同等。
- 価格:1m² あたり 2,000〜3,500円(従来型 2,500〜4,000円)。
- 採用事例:ビル天井材、戸建住宅の屋根裏断熱。
コルク・麻繊維系遮音材#
- 素材:天然コルク、麻、亜麻からの多孔質シート。
- 特性:低周波遮音性に優れる(D-30相当)。
- コスト:高めだが、環境訴求力が高い。
- 採用事例:高級賃貸、ECO認証施設。
廃タイヤリサイクル防振材#
- 素材:廃ゴムチップをバインダーで固化。
- 効果:D-25〜30相当、特に低周波に効果的。
- コスト:従来型防振ゴム比 45% 削減。
- 市場反応:建築廃材処理事業者から注目。
ナノ多孔質素材・軽量遮音材の開発#
ナノセルロース複合吸音材#
- 特徴:セルロースナノファイバー(CNF)を活用。
- 性能:従来型比 50% 軽量、吸音係数 0.95以上(ほぼ完全吸収)。
- 用途:スタジオ、劇場、高級ホテルの天井材。
- 市場投入:2025年Q2予定。
- 参考価格:1m² あたり 8,000〜12,000円(高級品)。
エアロゲル系遮音材#
- 特徴:シリカエアロゲルをポリウレタンで支持。
- 性能:厚さ 50mm で従来型 100mm と同等の遮音(D-35相当)。
- 課題:脆性が高く、施工性が課題。改良中。
グラフェン複合素材#
- 特徴:グラフェン(カーボンナノチューブ)を基盤材に混入。
- 性能:遮音(D-35相当)+導電性(静電気対策)+軽量(30% 削減)。
- 開発段階:2026年の商用化目指す。
国産メーカーと海外メーカーの競争軸#
| メーカー | 強み | 弱点 | 市場シェア | 戦略 |
|---|---|---|---|---|
| 日本(ロックウール、パラマウント) | 施工ネットワーク、カスタマイズ性 | 素材開発投資, 国際競争力 | 45% | 標準品の安定供給+新素材開発 |
| ドイツ(Rockwool、Isover) | 素材技術、環境認証 | 価格競争力 | 25% | 高機能・高価格商品に特化 |
| アメリカ(3M、Johns Manville) | ナノテク応用、多機能材 | 日本市場への参入遅れ | 15% | 新素材+M&A戦略 |
| 中国・アジア(チャイナ、インド) | 低価格 | 品質ばらつき、施工サポート不足 | 10% | コスト優位での市場侵食 |
| その他日本企業 | 地域密着, 小ロット対応 | 規模の経済が未達 | 5% | ニッチ市場、高機能品 |
トレンド:国産メーカーと海外先進メーカーのJVや技術提携が加速。例:ロックウール×Isover共同研究(ナノセルロース材)。
製品別価格帯と性能比較#
吸音パネル・ボードの相場#
| 製品タイプ | 厚さ | 吸音係数 | 1m²価格 | 用途 |
|---|---|---|---|---|
| グラスウール標準品 | 50mm | 0.70〜0.80 | 1,500〜2,500円 | 天井、壁面 |
| ロックウール高級品 | 100mm | 0.85〜0.90 | 4,000〜6,000円 | スタジオ、劇場 |
| ウレタンフォーム | 50mm | 0.75〜0.85 | 2,000〜3,500円 | 内装, DIY |
| セルロース系 | 50mm | 0.75〜0.85 | 2,000〜3,500円 | 環境配慮 |
| ナノセルロース複合 | 50mm | 0.90〜0.95 | 8,000〜12,000円 | 高級施設 |
防音マット・遮音シートの相場#
| 製品タイプ | 厚さ | 遮音等級 | 1m²価格 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 標準遮音シート | 3〜5mm | D-20 | 1,000〜1,800円 | 基本性能 |
| 重量遮音材 | 5〜10mm | D-28〜30 | 2,500〜4,500円 | 低周波対応 |
| ナノ防振マット | 30〜50mm | D-35〜40 | 5,000〜9,000円 | 最新技術 |
| 複合遮音材 | 10mm | D-35 | 3,500〜6,000円 | 遮音+吸音一体 |
プロ・DIY向けの選定ポイント#
プロ(施工業者)向け
- 信頼性と施工性重視:国産メーカー標準品(グラスウール、ロックウール)。
- コスト効率性:セルロース系、リサイクル材での対応。
- 納期安定性:複数メーカーの代替製品確保。
DIY向け
- 初心者向け:ウレタンフォーム(施工容易、価格手頃)。
- 高性能志向:吸音係数 0.85以上の製品選定。
- 環境配慮:セルロース系、コルク系での選択。
2026年以降の市場展望#
住宅業界の「静音基準」義務化の可能性#
- 2025年改正で「開口部性能」が強制化されたことで、次は「室内音響性能」の義務化が議論中。
- 推定時期:2027年〜2030年の次次期改正。
- 影響:全新築住宅に最低限の吸音材施工が求められる可能性。
サステナブル建材としての方向性#
- CO2削減目標:2030年までにバイオ・リサイクル素材比率 60% 以上への業界目標。
- 認証制度の強化:EPD(環境製品宣言)、カーボンフットプリント表示が標準化。
- 補助金対象化:環境配慮型防音材への優遇税制・補助金制度が検討中。
価格安定と技術革新の両立課題#
課題
- ナノ素材などの新製品は依然高価格。普及には市場規模の拡大が必要。
- 原材料価格の変動(特にアジア産品)による供給不安定性。
対策
- 大量生産化による 3〜5年での コスト 20% 削減見込み。
- 国産素材の活用で輸入依存度低下。
まとめ:防音建材市場は「質と環境の両立」へシフト#
- 市場規模:2025年 +10%、2027年には 1,380億円規模へ拡大。
- 素材革命:ナノテク、バイオ素材、リサイクル材による高機能化が加速。
- 価格動向:新素材は高価だが、3〜5年で標準化により価格低下へ。
- 環境対応:建築基準法改正と歩調を合わせ、「静音+カーボンニュートラル」が標準要件に。
防音材選びは、単なる「静かさの追求」から**「健康・快適・環境」の総合評価**へ進化。今後は、性能だけでなく、環境負荷や持続可能性を含めた「総合価値」で製品選定される時代になります。
